日本における継続取引と外国会社の登記義務

会社法上、外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができない、とされています(818条1項)。また、外国会社は、日本において取引を継続してしようとするときは、日本に住所を有する日本における代表者を定めなければならないとされています(817条)。818条1項への違反については、「会社の設立の登録免許税に相当する過料」とういう罰則があります(979条)。

 

現在では、外国会社が日本に事務所をもたないまま、インターネット通販で日本の事業者や消費者に対して商品を売ることができるようになっています。この場合、日本において取引を継続していると言えるというのが素朴な感覚ですが、そのような会社がすべて日本で外国会社の登記をしているでしょうか。

 

「会社の設立の登録免許税に相当する過料」という特段重くない罰則と、当局側が違反事例の捕捉と執行が難しいという事情から、また、「取引を継続してする」という基準の具体例があまり示されていないという事情から、この規制は外国会社から軽んじられているように思います。日本における代表者がPE(恒久的施設)として税務リスクを生じさせる可能性があるということであれば、なおさらです。

 

一件不都合がないとも思われますが、例えば、消費者被害が生じたときに、日本で訴える先がないという事態が生じます。運用論あるいは立法論として、この会社法の規制をどのようにしたいのか、検討すべきではないかと思います。

 

就業規則の新規作成と既存従業員からの個別同意

常時10名以上の労働者を使用することとなり、就業規則を新たに作成するときは、既存の従業員から個別に同意書をもらうべきだと考えています。

 

理由は二つあります。

 

理由の一つ目は必要性の問題です。就業規則の新規作成による労働条件の変更には労働契約法10条が類推適用されると考えられています。ですので、合理性と周知があれば、一方的な既存労働条件の不利益変更も可能です。しかし、既存の労働契約が労働条件通知書ひな形のようなものにとどまる場合、就業規則により変更(追加)される内容は多岐にわたります。せっかく就業規則を制定するのだから、、と、色々盛り込みたくもなるでしょう。そして、変更に合理性があるかどうかは、将来裁判になったときに登場する担当裁判官にしか分かりません。

 

二つ目は許容性の問題です。就業規則を新規に作成する事業場は、従業員数が10名程度であるはずであり、社長が各自の顔を見て説明し、個別に同意を得るのにそれほど苦労しない規模だと考えます。

 

この点は、巷ではあまり触れられていないような気がしますが(作成・周知・届出で終わりとするものが多い)、重要な点だと思っています。

 

 

ワクチンと個人情報

コロナウイルスワクチンを接種したという情報は個人情報保護法上の要配慮個人情報(法2条3項、令2条3号)に当たるのではないでしょうか。薬剤服用履歴だからです。

会社が従業員の要配慮個人情報を得るためには同意が本人の同意が必要です(法17条2項)。

同意なくして得るための例外規定もあります。ワクチン接種について関連しそうなものは、①人の身体生命に必要で、かつ本人同意取得困難、②公衆衛生向上に特に必要で、かつ本人同意取得困難、の二つです(法17条2項)。

厚生労働省の発表では、「現時点では感染予防効果は十分には明らかになっていません。ワクチン接種にかかわらず、適切な感染防止策を行う必要があります。」(ファイザー)、「現時点では感染予防効果は十分には明らかになっていません。ワクチン接種にかかわらず、適切な感染防止策を行う必要があります。」(モデルナ)とのことであり、ワクチンは発症予防が主たる効果と説明されています。

ワクチン接種の効果が感染予防ではなく発症予防なのであれば、上記の例外規定を使った同意なき取得は難しいのではないでしょうか。

そうすると、本人同意がなければワクチン接種の情報は取得できないというのが、帰結になります。

さらなるポイントは、ワクチンを接種しない人はその情報を慎重に取扱いたいはずであり、反対にワクチンを接種した人はワクチン接種の事実を積極的に伝えたいであろうということです。

同意した人だけ回答をくれればよいという取得の方法ができるのであれば、回答しない人がワクチンを接種していない人という状態になるのではないでしょうか。

これでは、本人同意がなければワクチン接種の情報は取得できないという帰結は無駄になります。

したがって、本人同意がなければワクチン接種の情報は取得できないという結論から、「同意した人だけ回答をくれればよいという取得の方法」自体を不正手段とすべきではないでしょうか(法17条1項)。やりすぎでしょうか。

個人情報は目的外利用ができません(法15条2項)。プライバシーの問題もあります。具体的に議論する必要があると思います。

外貨建て円払いの賃金

労働基準法上、賃金は通貨で支払わなくてはなりません(法24条1項)。この「通貨」には外貨は含まれません。ですので、賃金を「月3000米ドル」と契約して毎月3000米ドルを払うというのは、法24条1項に違反します。この違反には、30万円以下の罰金という罰則があります(法120条1項1号)。

では、賃金を「月3000米ドル相当の日本円(毎月の給料日の為替レートで換算)」とするのはどうでしょうか。

もともと、通貨払いが強制されるのは、現物給与を警戒しているからです。現物給与の場合、その物の価格が安定していなかったり、現金化が難しかったりするという問題があります。外貨についても、米ドルではなく日本と国交のない国の通貨の事例を考えてみると、法が日本円で払えと強制する意味も分かります。

上記の例では、支払が円ですので、現金化が難しいという問題はありません。しかし、価格が安定していないという問題は残ります。米ドルだから問題がないという切り分けは、外貨ごとの検討が必要となり、外貨を一括でだめと言っていることとズレが生じてしまいます。

規制の目的に鑑みれば、外貨建て円払いも禁止されていると考えて対応すべきではないかと思います。

なお、労働者が同意していればよいではないかという考え方もあり得ます。しかし、労働基準法が法で定める基準に反する労働契約を認めていないことから(法13条)、その考え方には疑問が残ります。